脚本が秀逸だとワンシチュエーションでも飽きない。
密室劇の傑作として有名な作品だったが
脚本はもちろん、演技も演出も映像も洗練されていた!
オススメ:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
普段は本のレビューしかしないんですが(しかも怖い本)、実は毎週末には映画を観るようにしています。なので、刺さる映画があったときはメモがわりに記録していきます。
作品概要
監督 シドニー・メルット
原作・脚本 レジナルド・ローズ
出版社 KADOKAWA
発表時期 1959年 アメリカ
ページ数 344ページ
備考 1954年アメリカ制作のテレビドラマをリメイクして作られた
法廷ものサスペンス映画
あらすじ
ニューヨークの裁判所。18歳の不良少年が実父殺害の容疑で裁かれようとしていた。
法廷に提出された証拠や証言は被告人である少年に圧倒的に不利なものであり、陪審員の大半は少年の有罪を確信していた。
12人の全陪審員一致で有罪になると思われたところ、ただ一人、陪審員8番だけが少年の無罪を主張する。彼は他の陪審員たちに、固定観念に囚われずに証拠の疑わしい点を一つ一つ再検証することを要求する。
すぐに評決に達しなかったことに11人は苛立つが、8番の説得によって次々と無罪に転じていく。はたして審議の行方は?
登場人物
陪審員1
陪審員長。議論を進行させる。体育教師でフットボールのコーチ(夢の男に似ている)
陪審員2
銀行員。慎重だが弱気。
陪審員3
会社経営者。息子との確執から有罪意見に固執。メンツもあり最後まで譲らなかった。
陪審員4
株のブローカー。冷静沈着で論理的に有罪判決を主張
陪審員5
工場労働者。スラム育ち。生い立ちから人の偏見やナイフの使い方についての意見を述べる。
陪審員6
塗装工の労働者。義理人情に厚い
陪審員7
食品会社のセールスマン。判決に全く興味がなく、午後8時から始まるヤンキースの観戦予定ばかり気にしている。
(早く帰れるなら、多数派に意見を変えるのも厭わない)
陪審員8
最初から無罪を主張した人物。建築家。検察の立証に疑念を抱く。
陪審員9
老人。8番の意見を聞いて他人の生死を議論して決めることの大切さに気づき最初に意見を変える。
陪審員10
偉丈高な自動車修理工場経営者。貧困層への差別意識が大きく、プライドも高い。
陪審員11
時計職人。ユダヤ系移民。
陪審員12
広告代理店宣伝マン。スマートで社交的だが軽薄で何度も意見を変える。
テーマがいい
最初に陪審員8が問題提起するように「人の生死をこんなに簡単に決めていいのか?みんなで深く考えよう」ということから物語は始まります。
自分が下した判断になぜそう思うか理由は言えるのか?
自分がマイノリティだからと忖度してしまっていないか?
反対意見にも耳を貸してみたか?(あらゆる可能性について検討したか)
人種や生まれた場所からの差別意識はないか?
など、自身が本当に公正な判断を下せているかを確認するような内容になっています。
この映画でいいなと思ったのは、陪審員8番も含めて、容疑者が有罪か無罪か?本当のところは当事者以外はわからないということです。提出された証拠が捏造されている可能性もあるし、誰かが容疑者を陥れようと嘘の証言をしている可能性もある。もちろん逆に容疑者が嘘をついている可能性もある。
しかし、そんな状況を鑑みて、入手できる限りの情報を集め、討論を重ね、意見を集めて人々が自身で考え、公正な正義を貫くことの大変さを見事に描いています。
大変なのは証拠などの情報を集めることよりも12人の男たちが真剣に討論をするという状況を作り出すことでした。たった12人でも、他人任せで我関せずの人間や、冗談ばかり言っておちゃらけて意見を言わない人、有罪にすると後味が悪いからという身勝手な理由で無罪を主張する人や、後に用事が使えてるからどっちでもいいから早く終わらせようという人間がいます。
映画の場合には「陪審員制度」という全会一致じゃないと議論を終われないという制度があったので半ば強制的に議論を続けることができましたが、現実ではそうとは限りません。
さらに衝撃なのが、この密室に閉じ込められた12人の男たちは、皆んな普通の優良な一般市民だということです。物事を深く考えない人や偏見にまみれている人でも立派な一般市民です。
人間がどんなに真剣に考えることや討論が苦手か、この映画を見るとよくわかります。
悲しいかな、特に日本人はその傾向があるでしょうね。
やる理由は少ないのに、やらない理由は無限にある。
知らないことはたくさんあるのに、何かと理由をつけて知ろうとしない。
そういう矛盾点を鋭くついた作品だと思いました。
登場人物と演出がいい
この映画は95分間。最初から最後までずっと1つの会議室で12人の人間が討論を重ねるだけのシーンが続きます。(合間にトイレ休憩あり)
しかしながら、全く退屈はしません。脚本が秀逸だとワンシチュエーションでも飽きないというのを地でゆく作品。
登場人物それぞれに個性的なキャラクターが設定されており、物語が進み、彼らの意見をひとつづつ聞くことで、どんな人間なのかわかるようになっています。
それぞれにいろんなパターンの人間の弱さや悪さ、良さが散りばめられています。
偏見の強さは、逆に仲間意識の強さだったり、楽天的な性格だと思いきや、ただ責任を取ることが嫌なだけの人など。一つの会議室に人間の縮図と思われるような多彩な面々が押し込まれています。
また、誰かが発言している時にガヤを入れさせない為か、アップのカメラワークを多用していることも、発言者の内容に注目できるのでとても評価できます。
(日本版の「12人の優しい日本人」脚本:三谷幸喜は舞台みたいな引きのカメラワークでガヤもうるさかった)
会議室から見える窓の外の景色が、高温多湿の蒸し暑い状態から、豪雨、扇風機で気分転換することで場の空気が和やかになるなど、討論の状況とリンクしているのもなかなかニクイ演出でした。これがあるので、最後の雨が晴れた街に12人が晴れ晴れとした表情で散り散りになってゆくラストも引き立ったのだと思います。
まとめ とにかく全部いい
アマゾンプライム映画で観ましたが、近年稀に見る面白い映画でした。
白黒映画ですがとてもおすすめです。
最近自分で何か決断しましたか?自分で考えた気になっていないか、他人に委ねていないか、自身を振り返るのにとてもいい映画です。
どうでもいいですが、陪審員1の方、世界的に有名な海外発都市伝説”this man”にそっくりじゃありません?
似ている作品
邦画 12人の優しい日本人
※似ていますが、テーマはブレてるし、ガヤがうるさいし、本家とは全く別物でガッカリしました。