理性の眠りは怪物をはぐくむ
「キャリー」「呪われた町」とヒットを続けるキングの長編小説3作目!
幽霊屋敷を題材にした小説の金字塔。
ジャックだけど、ニコルソンじゃないよ!トランスだよ
オススメ:⭐️⭐️⭐️
※今回は星3つなのでレビュー短いです。
※星の付け方については↓の記事をご参照ください
作品概要
作者 スティーブン・キング
発表時期 1986年 (発表は1977年)
ページ数 421(上巻)・430(下巻)
備考 1980年に映画化 (スタンリー・キューブリック監督)
キューブリック版が気に入らず、キング自らの脚本で1997年にドラマ化(4時間30分)
2013年に続編のドクター・スリープ発表
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あらすじ
ジャック・トランスはコロラド州のロッキー山上にある「オーバー・ルックホテル」の冬季管理人の面接に来ていた。
過去の管理人が閉鎖的な状況に耐えられず家族を殺し、自害するという問題を起こしたこともありホテルの支配人であるアルマンはジャックには管理人の仕事は荷が重いと考えていたが、ジャックにこの仕事を紹介した友人のアル・ショックリーはこのホテルの大株主だったため、コネで採用が決まる。
山頂にあるオーバールックホテルは冬季には積雪が多く、人の行き来が困難になる。
そのため、管理人のトランス一家は一冬の間(クリスマスを超えて次の年の5月まで)外部との接触を断ち、
ホテル内で生活しなければならなかった。しかしジャックの本業は戯曲作家だったため、集中して作品に取り掛かるためには絶好の機会だった。
オーバールックホテルはアルマンの説明通り長い歴史のある大きく立派なホテルだった。
戯曲制作の合間にホテルの管理業務をするために立ち寄った地下室でジャックはホテルの歴史には歓迎するべきものだけではなく、暗く、悲惨な事件も含まれていることを知る。
ホテルの歴史を知るほどに、その魅力に取り憑かれたように地下室へ通う時間が多くなるジャック。
治りかけていたアルコール依存の症状が再発し、短期で激昂しやすくなったジャックは既にホテルの闇に取り込まれつつあった。
また、「かがやき」と呼ばれる特殊な能力を持つ息子のダニーは、到着当初からこのホテルの不穏な雰囲気を感じ取っていたが、
この仕事が両親にとって大事なチャンスだということも理解していたため、なるべく危険ではなさそうな場所を選んで毎日を過ごしていた。
深夜に聞こえる古いエレベーターの動作音、スズメバチの巣、217号室の幽霊や息子の癇癪……度重なる奇怪な現象に耐えられなくなった妻ウェンディとダニーはホテルからの脱出を図ろうとする。
しかし、管理人の仕事を失って無職になる恐怖にジャックは「お前らには責任がないのか!」と一喝し、ホテルからの逃亡を許そうとしなかった。
禁酒していたハズのジャックがある日酒気を帯び暴れてウェンディやダニーに襲いかかったため、ウェンディはジャックを脅威とみなし外側からかんぬきをかけられる食品貯蔵庫に閉じ込めた。これで春まで待てばいいと安堵したのも束の間、深夜になぜかジャックは貯蔵庫を抜け出して再度ウェンディとダニーに襲いかかる。
追い詰められるウェンディとダニー。ダニーの「かがやき」の力で助けを求めていたホテル料理長のハロランがホテルへ到着するが、気づいたジャックに頭部を殴打され気を失う。
ダニーをホテルへの生贄にせんと殺意を持って近づくジャックに、ダニーは地下のボイラーの点検はしたか聞く。
実はホテルの暖房装置防である大型のボイラーは古くなっており、日に何度か圧力を抜いてやらないと爆発を起こすからと注意されていたのだった。
貯蔵庫に閉じ込められてから全く管理業務を行なっていなかったジャックは急いで地下のボイラーへ向かう。
180を超えたら近づきたくもないと言われていたメーターは既に250を超えていた。
ジャックの圧力放出は間に合わず、ホテルは爆発。
ダニーとハロラン、ウェンディは瀕死の傷を負いながらも、ホテルから脱出、
ハロランの乗ってきたスノーモービルで生還した。
おしまい
言わずと知れた名作映画の原作
小説の主人公はジャック・トランスだが、映画で主演を演じたジャック・ニコルソンをイメージする人の方が多いのではないだろうか。(あれは本当にハマり役だった)
映画の雰囲気もかなりいいが、小説を楽しむなら、キングがこの作品を書くきっかけとなった実在の心霊ホテル「スタンリーホテル」について予習してから小説を読むことをおすすめする。小説の内容に劣らずなかなかの幽霊屋敷。
上下巻合わせて800ページ以上の長編の割には「あらすじ」に書くようなメインの展開は少なめ。
それほどオカルト現象やホテルより、人物背景についての描写が多いとも言える作品。
ジャックがわざわざアルマンを怒らすために電話して「ホテルの真実を作品に書く!」と脅すところなど、必要だったか?と思うような箇所はしばしばある。
しかし、これについては、キングがこの作品をシャーリィ・ジャクスンの「丘の屋敷」(山荘綺談)にインスパイアされて書いたということでかなり納得がいく。
キングは単純に幽霊屋敷について書いた小説ではなく、人間関係でどうしても浮いてしまう人間が闇に取り込まれる様を描きたかったんだと思う。だから冗長なまでにジャック・トランスの生い立ちや人間について書いてあるのだろう。ちなみに自分が自意識過剰だという認識がある人、この小説は必見です↓吐き気がするほど悲しい物語
それでもキングは読み進めるためのフックが巧みだと思う。ホテルが冬場に閉鎖される状況や、過去にあった事件など恐怖のなかでもモンスターと直接対決するよりも「ここには何かいるぞ。くるぞ、くるぞ〜」と惹きつけるような恐怖の書き方をする。
主人公のジャックについては、実はホテルの管理人をする前に、ひき逃げ事件や傷害事件を起こしていたり、父親が暴力的だったりと問題が多いのだが映画ではそこは削られている。
また、本文中にはクリケットに似たスポーツのロークだかクロッケだかのスポーツが出てくるが、日本ではゲートボールとして浸透しているため、殺人鬼と化したジャックがゲートボールの木槌を振り回して追いかけてくる姿はどこかマヌケでクライマックスの恐怖は半減してしまう。(映画版のファイヤーアックスの方が好み)
本文中の引用や文章にしばしばエドガー・アラン・ポー「赤死病の仮面」からの引用やエピグラフが見られるが、これはオーバールックホテルで今も繰り広げられている幽霊達の宴を表したものだと思われる。
時計が鳴るたび、音楽と踊りを楽しんでいた人びとは、愉楽から引き戻されて動きを止める。
時計の鐘が鳴るあいだ、動揺や不安が人びとを捕らえるような描写だが、これはボイラーというタイマーや外部から来た人間の力がしばしば幽霊達の舞踏会を中断させているという暗喩ではないかと感じた。外の状態を忘れて城壁の中で舞踏会に興じている幽霊達の姿が重なるようでこれもなかなかニクイ演出。
でもやっぱりキングは「呪われた町」の方が面白いかな。
似ている作品
小説 丘の屋敷(山荘綺談) シャーリィ・ジャクスン
映画 ホーンティング・シャイニング・悪魔の住む家・ポルターガイスト
キングはシャーリィ・ジャクスンの「丘の屋敷」(山荘綺談)をヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」と並んで過去100年間で最高の怪奇小説と褒め称えた