家の障りはありませんか?営繕屋が修繕いたします。
事故物件ブームの先駆けとなった「残穢」の作者が送る
住居にまつわる怪異を営繕屋・尾端が独自の視点から修繕する。
怪異や幽霊に対しての見方が変わる、ハートフルな全6篇。
オススメ:⭐️⭐️⭐️
※星の付け方については↓の記事をご参照ください
作品概要
作者 小野不由美
出版社 KADOKAWA
発表時期 2014年
ページ数 268ページ
備考
「営繕かるかや怪異譚」はシリーズ可し、現在3巻まで出版されている
「青の祓魔師」の作者(加藤和恵氏)によりコミカライズされている
【営繕】の意味
建造物の新築と修繕のこと。(三省堂『新明解国語辞典』第四版より)
一般的には模様替(リフォーム)なども含む。
【かるかや】の意味
山野に自生する多年草。葉はイネに似て、秋、ムギの穂に似た小さい花を葉のわきにつける。高さは1.5メートルくらいに達する
感想
恐怖作品として仕上がっているが『怪談』でもなく、怖がらせるための『恐怖物語』でもない
日常に潜む、ちょっとした不思議な体験『怪異』の原因と対策を探る物語。
どんなものにも【原因】→【何か】→【結果】がある。
日常に何物かの僅かな痕跡の結果を見つけても、原因や何が起こっているのかわからないと
恐怖になりうる。
困っているのは人間も幽霊も同じなのかもしれない。
建造物の修繕を専門とした修繕屋の尾端は、このような恐怖を伴った家の障りを
独自の視点から修繕・解決する。
祓魔師でも霊能者でもなく、特殊な能力のない修繕屋が心霊事件を解決すると言うのが新しいアイディア。
また、除霊して解決というわけでもなく、彼の「修繕」という元々の仕事を鑑みて、古くからあるものに手を加えてよりよくするという解決方法で、なるべく怪異との共存を目指すところが心が洗われるポイント。除霊や鎮魂などで無理やり浄化させない。
霊障と思われることも、原因がわかれば解決方法は人間へのそれと同じ
足りないものを優しく補ってやれば、次第に落ち着いていくもの。
そんな優しさに溢れた作品。
小野不由美さんの紡ぐ物語は、ハラハラと手に汗を握る展開や、背筋がゾクリとするような派手な恐怖展開はないけれど、砂地が水を吸うように淡々と着実に進行していく。
これが、退屈でつまらないと取られるか、リアリティや優しさに溢れる文章ととるか。
個人的には「異形のひと」が面白かった。
おじいちゃんの死は悲しい話だけど、幽霊になって怯えないで過ごせるようになって良かった。
全ての話にきちんとしたオチがあるわけではないけど、幻想的で不思議なお話。
あらすじ(ネタバレ)
📕奥庭より
死んだ祖母から古い家を受け継いだ祥子。
その家には開かずの間があった。古い箪笥が襖を塞ぐように置かれているのだ。
その襖が、何度閉めても開いてしまう。
🈲ネタバレ
昔、その和室で病死した女性がいた。彼女の幽霊は常に喉が乾いていて、中庭にある池を目指して襖や窓を開けてゆく。その行動が、何も知らない主人公を怖がらせていたというオチ。
幽霊の目的はわからないが、和室に閉じ込められるのが嫌で水辺に行きたいみたいだから、その導線を守るような改築をしてあげればいいのでは?という営繕屋・尾端の提案で部屋は開放感溢れる仕様に改装される。
📕雨の鈴
石畳の小路を歩く喪服の女の怪
城下町には石畳に覆われた袋小路がある。その小路には雨の日にだけ黒い着物姿の女が鈴の音とともに現れる。女が訪れた家からは、必ず不幸が出ると言う。
🈲ネタバレ
雨の日に袋小路を歩く女はおそらく死神のようなもの。なぜか真っ直ぐにしか歩けず、道の突き当たりに入り口がある家のドアを訪うという特徴があるため、主人公の家の玄関を潰して脇道を作る。
そうすることで女を袋小路から広い道路に出してどこか他の地域へ行ってもらうことに成功。(他で被害でないのか)
雨の日には自宅の脇道を通る女の鈴の音が今も聞こえる。
📕異形のひと
父親の仕事の都合で田舎に引っ越してきたマナカ。彼女は自宅の仏間で痩せこけた老人が手を合わせているのを見る。全く見ず知らずの老人だがその正体は?
🈲ネタバレ
最初は田舎ならではのオープンな関係で、近所の老人が勝手に家に入り込んでいると思い
これだから田舎は……と嫌悪するマナカだったが、次第に老人が現れる場所が人間が出入できるはずが無い場所になってゆき、引っ越しのショックから精神的な疲れから見える幻覚かと考えるようになってくる。
そんな折に、地元の人間から自分が引っ越してきた家には以前、家庭内暴力でいじめ抜かれて死んだ老人がいた事故物件だと知らされる。
家の中にいる老人はその幽霊で、生前に虐待を受けたトラウマから、今も人間から隠れようとしているのでは無いか?そう考えた営繕屋は、家に人が隠れられるような大きな茶箱を設置する。
📕潮満ちの井戸
母屋と離れの間にある中庭は、新しい家主の手によってみるみる洋風に作り変えられる。
ある日、中庭の奥からびたん、びたんと濡れたものを叩き付けるような音が。
🈲ネタバレ
怪異の正体はわからないが、原因は庭で放置されていた小さな祠を解体したことから発生した。
また、庭木がうまく育たないという怪異もあったが、これは単純にこの地域の井戸水には海水が混ざっているために塩害で作物が育たないというオチだった。
なんでも怪異と見ようと思えば見えるし、そうでない原因もあると言う話。
📕屋根裏に
上級武士が暮らしていたと言う街の一郭の古い屋敷に住む主人公一家。老いた母親はしきりに「天井裏に誰かがいる」と息子夫婦に主張する。老人の戯言かもしれないが念の為のため、先祖代々の屋根をあけると、そこには古びた1枚の屋根瓦があった。天井に屋根瓦を置くのはその地域の昔ながらの火除けのおまじないだそうだ。
🈲ネタバレ
なんだったか忘れた 印象の薄い話だった。すみません。
📕檻の外
離婚して故郷に戻ってきたシングルマザーの麻美は、この地で心機一転、親類から安く借りられる借家を探し、友人から格安で中古車を譲ってもらい、息子を連れて生活を立て直そうとしていた。
そんな矢先、購入したばかりの車に何故かトラブルが多発する。事故車なのではないかと疑う麻美だったが、
ある日とうとう家のガレージで車の中にいるはずのない子供の幽霊の姿を見てしまう。
🈲ネタバレ
怪異の原因は事故を起こした中古車にあるのではないかと見せかけて、実はネグレクトの少年がガレージで死んでいたという心霊物件の案件だった。
暗く閉塞感のあるガレージに格子窓をつけて明るく開放感を持たせることで幽霊を安心させて一件落着。
本来であれば自分の最も安らげる場所でなくてはならない自宅で亡くなると言うのは結構残酷な話だなと思った。
似ている作品
小説 「鬼談百景」 小野不由美
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