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好奇心には道徳がないのであります

孤島の鬼 ネタバレ レビュー

孤島の鬼


江戸川乱歩の数ある作品の中でも多くの著名人が「最高傑作」としてその名を挙げ、

乱歩自身に「長編の中では一番出来がいい」と言わしめたという『孤島の鬼』のブックレビューです

猟奇、変態、謎解き、BL要素あり!全部詰まった江戸川乱歩の傑作。

長編とは言いますが、長さはA6版の文庫本サイズで364ページ 

じっくり読んでも5時間ほどではないでしょうか乱歩が好きで読んでないなら必読です!

オススメ:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

     ※星の付け方については↓の記事をご参照ください

bogibogiko.hatenablog.com

 

 

『孤島の鬼』作品概要

 

大衆雑誌『朝日』(博文館)に、1929年昭和4年)1月から翌1930年昭和5年)2月まで連載された初の長編小説、乱歩が35歳の時の作品です。

この作品も生体解剖や人体改造などの気持ちの悪い描写が多いですが一つ前に発表した作品が「芋虫」ですか。そうですか。

この時期の乱歩さんはどうやら人体欠損や奇形にすこぶる興味がおありだった様子。(いつもか)

見せ物小屋や医学書など、大正浅草のおどろおどろしく不快な興奮の雰囲気ただよう物語が大好きな私は格別の満足感を持って読みました。

 

似たような作品

漫画 ガンニバル(二宮正明)・奇子手塚治虫

映画 D.N.A./ドクターモローの島・ムカデ人間・Mr.タスク

小説 「モロー博士の島」(H.Gウェルズ)

↑この辺でカンの良い方はお気づきだと思いますが、この作品には奇形の人間が多数出てきます。

大正時代というのはかの有名な「衛生博覧会」(※)が開催されて、大好評を博していた時期です。乱歩に限らず、今も昔も大衆というのは死体やミイラなど奇怪なモノに惹かれるのは性なのかもしれませんね。

 

 ※衛生博覧会とは「衛生知識の普及」を意図した催事。展示物は解剖模型や疾病患部模型、局部までリアルに作り込まれた蝋人形など、実にエロティックでグロテスクなものだった。

登場人物

簑浦金之助(みのうら) 25歳で貿易会社に勤める会社員

木崎初代(はつよ) 蓑浦の同僚の女性。なんども「しょだい」と読んでしまい、その度にどこかの田舎の旧家のお爺さんみたいなイメージが出てくる

諸戸道雄(もろと) みんな大好き諸戸くん 頭が良くて金持ちで美男子 なんでも持ってるのに蓑浦が好きなのが弱点

深山木幸吉(みやまぎ) 素人探偵 女好きでも所帯は持たない主義 読みはミヤギだと思ってた読みにくい

 

『孤島の鬼』のあらすじ(ネタバレ)

主人公の簑浦金之助(みのうら)は30歳を目前にして、すでに頭は真白、白髪頭の青年です。おまけに美しい妻の身体には腰のあたりに大きな傷跡があります。どうしてそのようなことに陥ったのか、蓑浦が自分たちの身に降りかかった惨劇について話し始めるところから物語は始まります。

 

当時25歳だった蓑浦は勤めていた会社の同僚の木崎初代とのデートが毎日楽しくてしょうがない。2人ともウキウキのラブラブ。

ある日、蓑浦はお金を貯めて彼女に婚約指輪をプレゼントしました。感激した彼女は何かお返しがしたいけれど、私には何もないからと言って、自分の両親の形見である「家系図」を蓑浦に渡します。なかなか趣深いお返しの品ですね。彼女は幼い頃に施設に預けられて里子に出された女性でした。現在の母は彼女の育ての親です。

 この初代が登場するたびに、脳内で「しょだい」と再生されてしまって、なんだか威厳のありそうなお爺さんのイメージで一瞬困惑する。他の名前にして欲しかった。

 

 プロポーズも成功してルンルンな蓑浦と彼女の間に割って入ったのが、蓑浦の学生時代の先輩、諸戸道雄(もろとみちお)。諸戸は初代の母親を通して初代に求婚してきました。

諸戸は顔よし、医者の卵で頭も良し、頼れる性格で、さらに実家が金持ちという勝ち組キャラ。しかし、最大の弱点として簑浦(みのうら)にゾッコン惚れている男色家という面がありました。彼は蓑浦と初代との間を引き裂くために、興味のない初代に求婚を仕掛けましたのです。お金もない普通のサラリーマンである蓑浦に比べ、諸戸は初代の育ての親に大いに気に入られ、初代の親は諸戸との結婚話を進めるように初代を説得します。(たぶん私が初代の友達でも諸戸をすすめる)それに対して「私が好きなのは蓑浦さんです」と反発する初代。親子の仲もだんだんと悪くなっていきます。

 これについては蓑浦も悪いんです。諸戸が蓑浦に惚れていることを知っていて、ノンケだけどいい男が自分に惚れているのは悪い気はしないと思っている悪い男なんです蓑浦。

 

2つのトリックを使った殺人事件

そんな折、初代が自宅で殺されました。ヒロイン(と思われる女性)があっけなく死んでびっくりしました。母親の寝ている隣の部屋で心臓をナイフでひとつきされていました。犯人は諸戸がめっちゃ怪しいけどギリギリ不明。

恋人の死を悲しんだ蓑浦は知り合いの探偵・深山木幸吉(みやまぎこうきち) に調査を依頼します。

深山木は初代殺しの犯人に目星が付いた様子でしたが、それを蓑浦に伝える前に、大勢の人間がいる海水浴場で初代と同じように胸にナイフをさされて命を落とします。この海水浴場で諸戸の姿を見かけた蓑浦は2つの殺人は諸戸によって行われたのではないかと疑い、彼を訪ねる決心をします。

 

普通の物語だったら、最初に怒った密室殺人について探偵役がハウダニット(どうやって殺したのか?)を見破ったり、じゃあ誰が、どんな理由で……と物語が展開していきますが、ミステリーキングの乱歩は格が違います。

 密室殺人に加え、すぐに衆人監視下での殺人という難しい殺人事件もぶちこんできます。普通だったら密室殺人1件でもメインディッシュになるのに、肉料理、魚料理が前菜でいっぺんに出てくるフルコースのような状況に早くも胸焼け気味に。デザートまでもつのか・・・。

謎の手記に記された恐ろしい出来事

諸戸と話をする中で彼は、初代へ近づいたのは蓑浦への嫉妬心からだったこと、彼も初代殺しの犯人を探していたことを白状しました。諸戸が犯人でないことがわかり、お互いが調べた情報から一緒に犯人探しをすることに。

深山木の遺品には彼に預けていた初代の家系図奇妙な古い日記がありました。日記にはどこかの島の蔵の中に隔離された結合双生児の少女:秀ちゃんと少年:吉ちゃんという珍しい異性の結合双生児によるおぞましい監禁生活のことが書かれていました。

 

この手記が気味が悪い。美少女と醜男の異性の結合双生児。

幼い頃には、2つの心に1つの身体で、うまく動きがとれないというような事が悩みでしたが、成長するにつれて、醜男の吉ちゃんが美少女の秀ちゃんに恋心を抱くように。

歪んだ愛情により毎晩身体を吉ちゃんに弄られる秀ちゃんの嫌悪と恐怖の日々が綴られています。離れたいのに身体が繋がっているため離れられない。ただただキモチワルイ!!!

 

諸戸との話し合いの中で、彼の出生について聞いた蓑浦は初代の出生の秘密が諸戸の故郷の島にあると考え、2人は島に渡り諸戸の父、丈五郎がいる諸戸屋敷を訪ねます。

諸戸屋敷は庭の土が所々掘り返され、頑丈な南京錠がかけられた空かずの間が何部屋もあり、使用人は全員が不具者という奇妙な屋敷でした。

 

謎解きと島で行われていたおぞましいビジネスの正体

丈五郎は、諸戸家の前当主が戯れに不具者の下女に産ませた子供でした。いつか諸戸家や世間に復讐すべく、山の中で世間を恨みながら成長し、諸戸家の当主が病気で早死にしたのをいいことに島に戻り、不具者だけで世界を支配しようとする歪んだ思想の持ち主です。

手記を書いた秀ちゃんも例にもれず、丈五郎の犠牲になった、もとは健常者の人間でした。

初代は実は島の当主の血筋だったものの、後から来た丈五郎に家土地財産を乗っ取られ、一家離散の憂き目に遭います。しかし、初代は諸戸家に代々伝わる財宝のありかが書かれた家系図を母親から託されていました。

初代と深山木を殺したのは丈五郎の下僕の曲芸一座の子供で、初代が受け継いだ家系図(財宝のありかが記されている)の奪取が目的だったのでした。

 

小悪魔系主人公に翻弄される諸戸が一番かあいそう

家系図の暗号を解き、古井戸から繋がる地下洞窟を探索する簑浦と諸戸。途中で道に迷い衰弱し、思い詰めた諸戸はもうこの世とはおさらばだからと簑浦に襲いかかります。この時に、乱歩のBL節が炸裂!

「怖い。僕、怖い」といいながら上目遣いに諸戸の身体を探って擦り寄って行く蓑浦、それに応えてきつく肩を抱きしめる諸戸。愛する蓑浦のために、光もない洞窟でも心が折れないよう諸戸は必死に蓑浦を励まします。諸戸の筋肉質で引き締まった身体が……とか蓑浦もついに陥落かと思いきや、キスしようとしてくる諸戸に「蛭のようで気持ちが悪い」と一蹴。蓑浦、お前のそういうとこだぞ!

 生還(と純潔)を諦めかけた時、島の老人に助けられた簑浦は、事件の驚くべき全貌を聞かされました。

曰く、諸戸は丈五郎に誘拐されてきた子で、シャム双生児に改造された秀ちゃんは、初代の妹の緑だというのです。

あぁ、よかった。諸戸があんなに汚らわしくおぞましい怪物から生まれたのでないことがわかって安心します。

命からがら洞窟を脱出を果たした簑浦と諸戸を迎えたのは、島に上陸した警察でした。

え?誰かケーサツに通報したっけ?とか思いながら、とりあえず国家権力が出てきて物語は大団円へ向かいます。

その後分離手術に成功した緑は簑浦と結ばれるものの、洞窟での恐ろしい体験(諸戸にイタズラされた)がきっかけで、簑浦と諸戸の容貌は醜く老け込んでいました。諸戸は本来の生みの親に会うことが出来ましたが、その後、病気に倒れて亡くなる間際まで、愛しい蓑浦の名前を呼び続けていたそう。おしまい。

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え?諸戸が一番かわいそうじゃない?幼い頃に怪物に誘拐されて、怪物の妻(こいつも化物)に気に入られたから人体改造は免れつつBBAの男寵にされ、島を飛び出して惚れた相手は禁断の恋で結ばれず。むしろ目の前でイチャラブされてストレスMAX。

ようやく邪魔者の恋敵も死に、自分の過去とも対峙して晴れて愛しい人との生還が叶うも、恋しい相手はすでに島で新しい女を見つけていたという・・・なんという悲劇(喜劇!)。

 

孤島の鬼 感想まとめ

乱歩がご存命なら「非公式でいいので洞窟でのチョメチョメから蓑浦も801に目覚めて生還して諸戸版ハッピーエンドパターンも読みたいです」とファンレターを出したい。

そのくらい居た堪れない愛すべきキャラ諸戸道雄。君はきっとドクターモローからとって「諸戸」と名付けられたんだね。最初から悲しい運命を背負っていたんだ。

さすが最高傑作と名高い名作。ボリュームもたっぷりで冗長でもなく、ちょうどいい。色んな意味で楽しく読みました!おすすめ。

 

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