ぼぎ子の恐怖図書館

好奇心には道徳がないのであります

呪いのカルテ(呪いに首はありますか) ネタバレ レビュー

呪いのカルテ


齢30歳までに必ず死ぬという呪いをかけられている一族の長男が営む心霊科クリニック。

呪いに取り憑かれた一族の長男、恵介と、墓麿(はかまろ)という名の呪いの物語。

最後はきっと、切ない。の帯に隠された解呪の方法とは?

わかっていても泣けるセツナ系ホラー

オススメ:⭐️⭐️⭐️⭐️

     ※星の付け方については↓の記事をご参照ください

bogibogiko.hatenablog.com

 

 

『呪いに首はありますか』(呪いのカルテ)作品概要

2014年「牛家」が日本ホラー小説大賞佳作に入選した岩城裕明氏の6作目にあたる作品。2018年発売。

文庫化で「呪いのカルテ」に改題された。内容的にも文庫の方がわかりやすいタイトルになったと感じます。

ホラー界隈では珍しく「泣けるホラー」として紹介されることの多い作品。

 

A6版の文庫本サイズで181ページと少ない文字数なので、3時間もあれば読み終わることが出来るでしょう。

短いながらも作者の確かな筆捌きと着想の豊かさが光る秀作。

「牛家」や「三丁目の地獄工場」が面白かったので、岩城裕明作品の3作目として拝読しました。

 

あらすじ(ネタバレ)

久那納家(くななんけ)の長子は、齢30歳になる前に死ぬ。その呪いを解くためには除霊した思念(ワクチン)を集め、呪いを人間に戻す必要がある___。

28歳の自称心霊科医久那納恵介(くななん けいすけ)は30歳になる前に死ぬという呪いを受けた一族の末裔として、呪いを解くため、幽霊の姿を見ることができる墓麿(はかまろ)を相棒に、心霊科という変わった看板を掲げて心霊現象に悩む相談者の依頼に応えていた。

 

幽霊の死体が見える妻の悩み。幽霊の誘拐事件。ゾンビと暮らす女。自分が人間だと思っている犬の幽霊……。

 

持ち込まれる相談の他にも、夜な夜な悪霊が潜んでいそうな心霊スポットに突撃しては、ボランティア除霊をして順調にワクチンを集める恵介と墓麿。除霊することで得られるワクチンを摂取することで、墓麿は人間になることができ、呪いは徐々に解除へと近づくと信じていた。

 

ワクチンを取り込むことで人間に近づいた墓麿は、ある時から実体化し、飲食や接触が可能になり、周りの人間にも見えるようになった。同時に壁をすり抜けることはできなくなり、痛みも感じるようになる。

 

墓麿が実体化した後の解呪方法について、恵介も父親から聞いていなかったため、恵介と墓麿は一度、久那納家の実家へ帰省することに。初めて会うはずの妹や母親は墓麿の姿を見ても、特に驚いた様子もなく、ひとこと「受肉したのね」と言った。(バ美肉か)

 

母や妹が知っていた解呪の方法は、呪いのままでは実体がないが、肉体を持てば殺すことができるというものだった。

そのために恵介の祖母は被呪者である恵介の父には思念体であるワクチンの集め方のみを伝え、母親と妹には墓麿が実体化した場合になるべく苦しまない殺害方法で送るようにと指示していた。

ワクチンの収集には墓麿の協力が不可欠であったため、祖母は墓麿にワクチンを集めると人間になれると嘘をついていたのだった。

 

今まで二人で同じ目標に向かって頑張ってきた結果がこれなのか、何かの間違いであって欲しいと思う恵介。

呪いが効力を発揮する30歳の誕生日まではまだ半年ほど余裕があり、恵介と墓麿はそのまましばらくは実家で暮らすことにした。

墓麿は積極的に家事手伝いをし、母親は墓麿の分の食事も用意した。風呂に入ることが義務付けられ、墓麿は妹の息子(恵介の甥っ子)とも仲良くなり、夕食の後には皆んなでテレビを見て笑った。いつのまにか墓麿は久那納家へ遊びにきた親戚のような存在になっていた。

しかし、もし恵介が呪いによって30歳になる前に死んだ場合、その呪いは妹の長子である甥っ子へと引き継がれる運命には変わりはなかった。

 

30歳の誕生日の前日、恵介と墓麿は妹夫婦に呼び出された。張り詰めた空気の中、妹が「もう、いいよね」と言い、妹の夫が「お義兄さんが無理なら、僕たちがやりますので」と金属バットを握っていた。「ちょっと待って」と言いかけた恵介を遮って妹夫婦は墓麿に襲いかかる。

テーブルや椅子を使いながらなんとか墓麿を庇い、隙を見て逃げようとする恵介。しかし墓麿が逃げようとしない。

「どうして?」と問いかけても無言で踏ん張って動かない。「どうして!」と叫びながら尚も襲ってくる妹。

恵介にも墓麿から「どうして?(僕を殺さないと君が死ぬのに)」と問う。恵介は「友達だから死んでほしくない」と素直に伝える。墓麿は困ったように笑い「僕も同じだよ」と答える。

妹夫婦が見守る中、墓麿の首に手をかけた恵介は「送ってやるよ」と静かに呟き、持てる力を振り絞り墓麿の気道を塞いだ。

 

後日談。オカルト系のライターから実体化した呪いの件についてインタビューを受ける恵介。

呪いの件が一件落着したので、心霊科は廃業するのかと問われた恵介は、色の入ったメガネをずらし自らの灰色に濁った右目をライターに見せ、霊が見えるようになったのでもう少し続けてみようと思うと答えた。

 

おじまいぃっ  涙 涙

 

呪いのカルテ 感想

最後まで読むととても面白い作品でした。

独特な設定で無理のない世界観

この物語は設定がしっかりしていて、無理がありません。幽霊とは人が死んだ時に残る何らかの痕跡(ぬくもりや香りなど)で、いわゆる残留思念体だと説明されます。残留思念体は生きている人間に干渉することはできません。しかし死ぬ前の人間(犬も)の心的外傷等により、こちらに干渉が可能な干渉型思念体悪霊)に変容することがあるというのです。

強力な呪いだった墓麿には、この悪霊だった干渉型思念体の未練を取り除き普通の残留思念体に戻した魂がワクチンになります。

岩城さんの他の作品はもっと奇抜な世界観の作品でも没入して読むことができます。複雑な世界観の開示が人物のセリフや状況描写に巧妙に織り込まれていて説明くさくないのです。

設定アイディアの豊かさと、そのルール説明の巧みさには毎度感服いたします。

 

短くまとまっていて読みやすい内容 

心霊科へもたらされた除霊の依頼➕恵介の一族についての話 という構成で物語は進んでいきます。

幽霊の死体幽霊の誘拐ゾンビ犬の霊 と作者独特の奇想天外なネタと解決方法で二人はワクチンを回収していきます。

事件解決に興味がなくても、恵介一族の謎も少しづつ明らかになるので、話の続きが気になりページをめくる手を止められません。登場人物が多くないのも無駄がなく読みやすいです。

正直に言って私は3件目の事件「結婚してから彼が変わってしまった」までは、岩城氏らしさがない文章だなと少しがっかりしていました。彼独自の奇怪で気味の悪い話を期待していたからです。

3話目が少し気持ちの悪い話なので、ここでやっと岩城氏の持ち味であるグロテスクで不快な文章を拝め、読む速度はアップしました。(褒めてますよ?)

 

わかっていても泣けるラスト

「最後はきっと、切ない」と帯にある通り、この本は最終章こそが真骨頂なのです

物語前半で「合わないかな??」と感じてもぜひ最後まで読んで欲しい!岩城氏らしさ溢れるラストがそこにはあるから!!

 

岩城氏は「牛家」に同時収録された「瓶人」や、そのスピンアウトにあたる「女瓶」のような、

人間と異形の間の、切なく哀しい物語が巧い作家さんだと印象があります。

単純な悲恋モノでもない「呪われた被害者」と「呪い殺す加害者」による友情の物語です。読んでいてもどうしたら正解なのか気持ちの整理がつかず、混乱し、辛く胸を裂かれる思いをします。

切な系ホラーってあまり思いつかないのですが、似たような話に宮部みゆきの「あんじゅう」に出てくる「くろすけ」も大好きなキャラのひとつでした。あぁ、くろすけや……(涙)

憎いはずの呪いなのに、憎めない大切な存在

主人公の祖母が「その時が来たらなるべく苦しまない方法で送ってあげて」と言っていたことや、父親が亡くなる時に墓麿にも「すまないね」と語りかけていたことからも、憎い呪いであった墓麿は、同時にみんなに愛されていたことが伺え、涙を誘います。

最後に妹夫婦、主人公、墓麿が三つ巴というか三すくみ状態になって全員が「どうして?」っていうシーンがあるのですが

全員が同じ言葉を使っているのに、答えは違うことを考えているというのが構造的に面白いなと感じました。

 

久々の「俺の屍を越えていけ」演出に涙

墓麿が「死んでほしくないんだ」と答えた後に、恵介の頭に浮かんだのは、父親が死んだ時の状況でした。

こんなに優しくて思慮深い墓麿は一体どんな気持ちで父親を看取ったのだろうか、祖母を送ったのだろうか……代々の先祖をどういう気持ちで呪い、見送ってきたのだろうか。それを考えた時、恵介は心を決めます。誕生日直前まで考えるのを引き延ばしていた恵介がこの一瞬で全て悟るというところで涙 腺 崩 壊 。んごごご

(主人公がどうするのか、もし何か秘策があるなら……私も一縷の望みを抱いて読み進めてました)

昔、ソニーから出ていた名作和風RPG俺の屍を越えていけ」というゲームがあったことを思い出す。生きる、死ぬ、託す!

まとめ

正直に言うと、読み始めた時からオチは予想がついていたのですが、それでも涙が出てきてしまうのは、やはり岩城氏の文筆力に他ならないです。

 

岩城氏の描く異形は、AIのようにひたむきで純粋。

人間の方がよほど利己的で汚い。それがまた、うらがなしい。

 

 

似たような作品

小説 宮部みゆき「あんじゅう」

 

-----------------------------------

📕本はメルカリで買うのが便利📚

在庫探しが楽!送料込みが多数! 販売者もブックオフより高く売れるし、購入者も中古屋さんで探すよりも安く手に入ります🤑結構お宝が隠されてますヨ🚣