ぼぎ子の恐怖図書館

好奇心には道徳がないのであります

山荘綺談(丘の屋敷) ネタバレ レビュー

多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない

ティーブンキングが過去100年の怪奇小説で最もすばらしい と絶賛!

幽霊屋敷を題材にした小説の古典的名作……と見せかけて、

実は自意識過剰で哀れな女の末路を描く、厭怖話。

 

オススメ:⭐️⭐️⭐️⭐️

     ※星の付け方については↓の記事をご参照ください

bogibogiko.hatenablog.com

 

幽霊屋敷というと日本では三津田信三氏の十八番、幽霊屋敷シリーズだったり、

小野不由美氏の残穢などを思い浮かべる人が多いのでしょうか。

ワールドワイドだとやっぱりコレ。

有名な心霊屋敷に心霊研究の博士がやってくるという設定も今でこそベタだけど面白いし、

ゴシック・ホラーとしての館の過去の事件や佇まい、内装や調度品の描写、不気味な奉公人などワクワク要素は満載!

 

 

作品概要

 

作者 シャーリィ・ジャクスン

出版社 早川書房(山荘綺談)・東京創元社(丘の屋敷)

発表時期 1959年 

ページ数 305ページ  

 ※翻訳物って時間かかるので読了までは5時間位が目安でしょうか

 

備考 1963年に映画化 「たたり」ロバート・ワイズ監督

   1999年に映画化ホーンティングヤン・デ・ホン監督

   2018年にNetflixでドラマ化 「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」 

 

あらすじ

心霊現象を研究しているモンタギュー博士は、自分の研究の助手として3人の若者を雇う。

ひとりは研究対象の幽霊館の持ち主の一族からルークという男性、後の2人は

家に岩が落ちてくるというポルターガイスト現象の経験を持つエリーナと、カード当ての名人セオドアという女性だった。

 

屋敷の管理人であるダドリー夫人が作る料理は美味しかったし、各々にあてがわれた部屋は快適でメンバー4人は屋敷の散策などをして1日目は楽しく快適に過ごした。

2日目も屋敷の散策を継続するが、開けておいた扉が全て閉まってしまう事態に陥る。

また、散策中には平衡感覚がおかしくなりエリーナは目眩を起こすが、これは館全体が微妙に歪んで設計されていることが原因だとわかる。さらに、原因不明にひどく冷たい空気が漂う部屋なども見つける。

2日目の夜、エリーナとセオドラは寝室の扉を強く叩く音を聞き、博士とルークは館内を影が通り過ぎるのを見る。

 

度重なる不可解な現象に、だんだんとメンバーの不安は募り、心は弱っていく。

 

館に来て一週間が経とうとしたある日、屋敷にモンタギュー博士の夫人助手のアーサーが到着する。

遅く到着した2人はこっくりさんや降霊術など、独自の方法で屋敷の現象を調べるが、何故かモンタギュー夫人らには怪奇現象は起こらない。

 

検証を進めるモンタギュー夫人やメンバーはやがてエリーナを中心にして怪奇現象が起こっているのではないかという仮説をたてる。

 

屋敷に魅入られたエリーナはついに館の女主人が自殺したと言われている塔で自殺未遂をする。

塔から間一髪助けられたエレーナだったが、モンタギュー博士はエレーナの状態が危険なため、研究に参加することは不可能だと判断しエレーナに強制帰還を命ずる。

 

屋敷から離れたくないと思っていたエレーナは、乗ってきた車で帰るふりをして屋敷の敷地内で交通事故を起こし、命を落とす。

 

おしまい

 

 

幽霊屋敷にはワクワクポイントがたくさん

物語の幽霊屋敷は80年以上、丘の上にポツンと建っているが、麓の一番近いヒルズデールの街も陰鬱で住人たちも不親切だ。

さらにこの屋敷の管理人は時間外業務が大嫌いで、時間きっかりに必要最低限しか働かないし、愛想も悪い。

ここまで来ると、麓の街で怪しげな老婆に「屋敷に近づいてはならん〜」的なことを言われたいのだが、流石にそれは無かった。

 

この屋敷を建てたヒュー・クレインという男の最初の妻は屋敷の敷地内で馬車の事故で死に、2番目の妻は屋敷のどこかから落下してなくなり、3番目の妻は病気で死んだ。

跡を継いだ姉妹は相続について争い、姉は屋敷で独り病死。その後、姉妹の姉から屋敷の相続を譲られたと主張する屋敷の使用人と妹が争い、使用人が勝訴するも、納得のいかない妹は使用人に脅迫や嫌がらせを続けた。

妹の嫌がらせが原因で恐怖症になった使用人は屋敷の図書室に通じる塔から首を吊った。その頃には妹の方も狂人と見られて姿を消した。

 

何の因果か女が死にまくる館という設定。さらに、壁には修道士だか尼だかの死体がぬりこめられているのだそう。祟り系の話だったら、この過去の事故や因縁をほじくり返しても面白い内容になりそうではあった。

 

さらに屋敷は水平をわざと歪ませているため外部から建物に侵入すると目眩のような不快感を感じる仕様になっている。ここら辺も理由はわからなかったので残念。

個人的には館の主人が怨霊を迷わすために増改築を繰り返す「ウィンチェスター・ハウス」のような展開を期待した。(ちがう物語になっちゃう)

館が傾いているため、開けたハズの扉がいつの間にか閉まっているというのが気持ちが悪い。さらに中心の部屋から同心円状に部屋が連なっているため窓のない部屋が多く存在し、建物の中はいつも薄暗い。雨穴氏の「変な家」みたいに探せば隠された部屋なんかもありそうな怪しい屋敷だ。

 

こんなたくさんのいわく(心霊ギミック)付きの屋敷で寝泊まりするなんて、なんて心が躍る研究だろうか。

YouTubeでもたまに「心霊スポットに泊まってみた」的な動画があるが、私はあの手の動画が結構好きだ。1950年台に心霊ユーチューバーの先駆けとなるような企画をしているモンタギュー博士の先見性に驚くとともに、人間の業は深いと改めて思う。

 

そんな館について作中のモンタギュー博士は次のような評価をしている。

 

山荘にはいろんな悲劇がまつわりついているわけだが、古い家はたいていそうしたものだよ。人間は生きるけれども、結局どこかでしななけりゃならんし、家だって80年も立ってればそこに住む人間のうちの何人かがその中で死ぬのを見るのは当たり前だからね。

 

このセリフは「シャイニング」や他の幽霊屋敷を題材にした小説でもしばしば出てくるが本当にその通りだと思う。

日本なんか戦国時代にあちこち古戦場とか処刑場とかあったはず。全部にビクビクしてたら

神経が衰弱してしまう。

 

メンバーを襲う怪異

とはいいつつも、館に滞在する日数が多くなるにつれ、メンバーは様々な現象に悩まされます。

深夜に部屋のドアを鉄の棒で力一杯殴りつけるような音が近づいてきたり、黒い影が館を徘徊していたり、洋服や部屋が血で汚されていたり……。

暗く長い廊下に並ぶ部屋のドアの1枚1枚を、殴りつける音だけが近づいてくる描写は、現代ではトイレに逃げ込んだ人間を追い詰める表現として使用されることが多いが、追い込まれる恐怖を的確に表した素晴らしい展開だと思う。

別に幽霊やモンスターや血飛沫を登場させなくても、くるぞくるぞ!の恐怖を表すことはできるのだ。

一体、誰が、何のためにメンバーを怖がらせるようなマネをしているのか

 

エレーナの孤独と自意識過剰モンスター

エレーナは32歳の女性だが、屋敷に来るまでは11年間母親の介護をしていたのでほとんど外部と接触のない生活。いわゆるコミュ障。さらに、現在は姉夫婦の家に厄介になっており、肩身の狭い存在。

 

そんなエレーナは、今回の研究でモンタギュー博士に屋敷に招待され、幽霊屋敷とは言え、毎日おいしい料理が食べられて、森の中を散策して歩く。同じような年頃の男女との共同生活に魅力を感じる。

 

しかし、自分に自信のない彼女は、他人とのコミュニケーションに小さな嘘を混ぜて話してしまったり、やたらと自分をアピールするような物言いをする。11年間培われたコミュ障スキルを遺憾無く発揮し、周りから浮いてしまう。

 

私は最初、この物語を読んでいて、エリーナが言った小さな嘘や、過敏に反応している様については、古い作品だから翻訳に違和感があるのか?と考えていたが、違った。

残念ながらエリーナは、嘘つきで見栄っ張りだった。

 

自己紹介の時に、こじんまりとしたアパートで一人暮らしをしていると嘘を言ってしまったり(実際は姉の家の居候)、トランプゲームのブリッジができるか?と聞かれただけでブリッジもできるし、猫も飼ってたし、泳ぎもできると過剰気味に返答する。

心霊現象が大きくなるにつれ「私が!私が!」とアピールが顕著になってゆく。

元々、シャーリイ・ジャクスンという作家は「信用できない話し手」の物語が得意だ。

今作『丘の屋敷』と同様に『ずっとお城で暮らしてる』という作品も有名だが、こちらにも語り手の女性(というか家族)が狂っている様が小説後半で明らかになってくる描写がある。

このことが分かってから、物語を読み進めるのが少々しんどい。エリーナがイタイ。

幽霊屋敷の恐怖というよりは、哀れなエリーナという感じだろうか。

 ※ちなみに「ずっとお城で暮らしてる」はすごく長い。何度も寝落ちした。

 

最近になってやたらと「自意識過剰」「承認欲求」という言葉を耳にするが、この小説が書かれたのは1950年代。

主人公のエリーナが絶妙に空回りしている状態や、周りが気を遣っている様子は、現代の私が読んでも胃のあたりがズンと重くなってしまうような、いたたまれない気持ちになる。

人間の性(さが)というのは50年以上経っても変わらないのだなぁとしみじみ感じる。

 

最終的にエレーナが中心になって怪奇現象が起こっている(彼女が起こしている?)こと、

彼女が何かに憑依されて塔から飛び降りようとしたことから実験の続行は危険と判断し、

屋敷から追い出されるように帰路につく。それでもエレーナは屋敷で過ごした一週間が楽しかったということが忘れられず、屋敷に戻りたいと強く願ってしまう。

 

死んだら、屋敷に戻れる!誰もあたしを止められない!と誰かロマンチックを止めてやらねばいけない状態に陥り、車のアクセルを踏み込んだ最後の瞬間

 

「……どうしてこんなことをしているのかしら?」

 

自分を取り戻して死んでしまう。ここが恐ろしい。

 

彼女の自信の無さからくる心の闇が、屋敷に巣食う悪霊に取り込まれたのか、彼女は本当に帰る場所が無かったからそうしたのか真実はわからない。

 

物語は最後に再び閉鎖された館の様子を記して終わるが、それがまた物悲しい。

悲しくて、怖い。エリーナみたいになるのは、おっかねぇ。

 

山荘の木部も石の部分も音一つない静寂が立ちこめ、そこを歩くものがあるとしたら、ただ一人ひっそりと歩くばかりだ。       

   終

 

ちなみに、作品では幽霊屋敷で起きた霊現象はエリーナが原因と考えられたが、

同じように、ある特定の女性を雇うと霊現象に見舞われる事件が1960年代のドイツで起こっていた。

ローゼンハイム事件

1967年に西ドイツで発生した怪異で、ジグムンド・アランという弁護士事務所で、ある日から頻繁にポルターガイスト現象が発生する。

誰も電話をしていないのに電話機のメーターが通話中になっていたり、電球がいきなり破裂、壁に吊るされた絵が回転する、机の引き出しが勝手に開くなどの怪異に見舞われた。

この現象がアンネマリー・シュナイダーという女性が事務所にいる時間帯のみに発生していたため、彼女を解雇したところ怪異や収まったという。

 

この作品はローゼンハイム事件よりも前に発表されているため、作品のモデルになったわけではないだろうが、実は日本にも江戸時代に特定の出身地の女性を雇うと怪異が発生したという「池袋の女」と呼ばれる俗信があり、昔から特定の人物を中心に何か怪異が発生する(超能力?)という事例はあるようだ。

 

似ている作品

 

キングと同様に、この作品を絶賛し生み出されたリチャード・マシスン「地獄の家」(ヘルハウス)も映画化されるヒット作。

たくさんの幽霊屋敷作品の元となった名作。これを機に幽霊屋敷作品を読んでみるのもいい。

 

 

小説 シャイニング スティーブン・キング

   地獄の家   リチャード・マシスン

 

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