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世界現代怪異事典 レビュー

朝里樹 世界現代怪異辞典

これこれ!こんなの欲しかった!

20世紀以降に世界各地で語られた怪異・怪物を800種類以上掲載

世界の怖い話をまとめた「読む」辞典

オススメ:⭐️⭐️⭐️

作品概要

作者 朝里樹

出版社 笠間書院

発表時期 2020年

ページ数 401ページ

「現代」とついているように20世紀以降の時代を舞台に語られた都市伝説や民話、幽霊や妖精、妖怪の話などを地域別、五十音順に記した事典。

未確認生物やインターネット上で語られる最近の怪談なども記載されている。

 

特に最近のネットミームであるポケモンに関する怖い話(シオンタウン・ベリードアライブ)や、マインクラフト(ヒロブライン)についての話は面白かった。

 

民明書房魁!!男塾)のように実在する体裁で書かれた架空の生物たちについても記載されており、

ゲロルフ・シュタイナー「鼻行類レオ・レオーニ平行植物などからの出典が目立つ。

これがアリなら、クトゥルフ神話で有名な神々や武器も入れて欲しかったのが本音。

 

地域でかなり情報量や質に差があり、ヨーロッパはやたらと詳細な物語が書いてあるものが多いが、中国やアジアについては少し寂しい。中国とか台湾はもっと調べればたくさん出てきそうな気がする。

中東は無し。

中東の刑罰とかって残酷なの多いから日本人が予想もできないような物語が出てきそうなので興味がある。

とは言っても、ヨーロッパやアメリカなど、詳細が書いてあり読み物として面白い話もたくさんあるので、それぞれの地域で面白かった話をいくつか書き出しておく。

 

アジアの怪異

封門村の怪

1963年の中国、3人の青年が封門村という村を訪れ、宿を探していた。

あてがわれた空き家は、以前に家族全員が病死した家だという。夜、3人は同じ悪夢を見て金縛りにあった。

数日後、3人のうちの1人がクローゼットを開けるとそこに悪鬼の顔が現れた。その顔は悪夢で見たものであり、その青年は倒れて高熱を出した。

また、別の日には別の一人が水の音が聞こえたため外を覗くと、井戸の近くで全裸を美しい女を見つける。

女は青年に気付き、微笑むといきなり井戸に身を投げた。驚いた青年は村人を集めて井戸を捜索したが、女はみつからず、やがて彼も高熱を出した。

最後の一人もまた何者かに首を絞められる夢をみて高熱を出した。

村の村長が生贄を捧げる儀式を行ったところ3人は快方にむかったという。この封門村は2007年に廃村になっている。

 

オラン・メダン号の怪

1948年インドネシアマラッカ海峡に現れた怪異。

オラン・メダン号から乗組員全員が瀕死という無線が発せられ、位置を特定した船舶が救出に向かうが

この船がたどり着いた時にはすでに無数のサメに取り囲まれ、無線に応答がなかった。

救命ボートでオラン・メダン号の中を見ると、生存者はなく犬も死んでおり、死因は不明だった。

最寄りの港に曳航する準備が整った瞬間、なぜかオラン・メダン号から火の手が上がり、船は大爆発を起こし群がっていたサメを巻き込んでバラバラになったという。

日本にも良栄丸遭難事故という恐ろしい海難事故がありますが、これはすでにサメに取り囲まれた船舶内で外傷のない遺体がたくさんあったということろが恐ろしいです。

 

アメリカ 

 

呪いの人形アナベルアミティヴィルの惨劇など、既知の事件がおおく

さらにはアメリカの開拓時期に生まれた民話トール・テール(ほら話)の話が多い。

 

キルロイ

第二次世界大戦頃のアメリカで頻繁にみられた落書きで、壁の向こう側から長い鼻を出した何者かが覗き込んでいる姿で「キルロイ参上」と記されているという。

この落書きは苦戦を強いられている地区や上陸作戦の場所など、危険なところでも目撃されており、恐れ知らずに仕事をやってのける兵隊の夢の具現化ではないかと言われている。

 

(バイオのハンクみたいでちょっとかっこいい)

 

魔女の刻印

1692年マサチューセッツ州セイレムにて、バックス大佐はコンフォート・エイズワーンという老女を魔女に仕立て上げ裁判で魔女と認定して絞首刑とした。

判決後に老女はバックス大佐を指差し「冤罪によって殺されるからには必ずバックス大佐を呪う!その証拠に大佐はすぐに死に、墓にこの日を忘れないように自分の足跡を刻印する」と叫んだ。

老女の言った通り、死刑の3ヶ月後にバックス大佐は死亡し、その墓は遺言によって、絶対に傷がつかない大理石で作られた。

しかし、その墓跡にはいつの間にかコンフォートのものと思しき足跡が刻まれていた。

そこで新しく同じ墓が作られたが、やはりその墓石にも老女の足跡が刻まれ、その後もさらに高級な石で新たに墓石を制作するも、同様に足跡が出現したという。

 

キングの小説「呪われた町」にもマサチューセッツ州のセイラムズロットという町が出てくるがこの魔女裁判があった街がモデルになっているに違いない!

 

ヨーロッパ

 

アンドリュー・クロスのダニ

1836年 イギリスでアントリュー・クロスという人物によって人工的に作られたという生命体。

炭酸カリの珪酸塩と塩酸を混ぜ、その中にイタリアのヴェスビオス火山から採れた酸化鉄鉱石を入れ、溶液に電流を流して珪土から人工水晶を作る実験をしていたクロスが、その際に何か白く小さな粒のようなものを見つける。

針で突くと動いたため、観察を継続し、26日後には手足の生えた昆虫のような形になっていたという。

さらに、クロスはこの実験を卵など、他の生命体が絶対に侵入できない条件で行ったところ、はやり生命体が生まれた。

この生物を昆虫学者に見せたところ、ダニの一種ではないかという結論になったが、科学者たちには嘲笑されることになる。

生命を生み出したというクロスの元には悪魔祓いが訪れ、クロスはこの実験について口を閉ざしたまま亡くなる。

 

クロンベルク旅館の13人の亡霊

1919年のハンガリー、クロンベルク夫妻によって経営されていた旅館の話。

クロンベルク夫妻の経営する旅館は経営難に陥り、財産のほとんどを使い果たし、子供達は全員家を出たり戦死した。

夫婦は生活を守るため、旅館に泊まりに来た客を殺害し、金品を奪うようになる。

クロンベルク夫婦は1919年から1922年までの3年間で10人の客を殺害した。

その方法は夕食の後にサービスで出すワインに猛毒のストリキニーネを混ぜるという方法だった。

ある日、事件の発覚を恐れた夫婦は、次の一人を最後の殺しにしようと決める。

1922年の8月、金貨で膨らんだスーツケースを持った30代の男性が泊まりにやってくる。

いつものように毒を混ぜたワインを振る舞い殺害するが、男性の持ち物からクロンベルク夫妻の写った家族のスナップ写真が見つかり、この男性がかつて家を出た息子であると発覚する。

それを知った夫婦は息子が死んだ食卓へ戻り、共に毒の入ったワインを煽り自殺する。

この旅館はその後、夜になると毒殺された11人の客とクロンベルク夫婦の幽霊が食卓を囲んでいる姿を目撃するという噂がたち、幽霊が出るということで誰も買い手が付かなかったが、1980年に謎の出火により全焼したという。

 

オラミュンデ伯爵夫人

ドイツの怪異。

かつてバーデン地方に住んでいた若い辺境伯が、旅の途中のデンマークで2人の子供をかかえた美しい寡婦であるオラミュンデ伯爵夫人と出会う。

2人はすぐに恋に落ちるが、辺境伯は両親の許しがないと彼女と結婚することができないと考え、彼女に「2組の目がある限り、一緒にはなれない」と告げてやがて故郷に戻る。

国に帰った辺境伯は無事に両親に結婚の許しを得ることができ喜んでデンマークへ戻った。

しかし、オラミュンデ伯爵夫人の家に着くと、彼女は病床に臥していた。

何があったのか聞くと「バーデン辺境伯と結ばれるために、邪魔な2組の目を消した」と言った。

彼女は勘違いから2人の子供を殺していたのだった。

バーデン辺境伯は恐ろしくなって、伯爵夫人を置いてドイツに逃げ帰った。

しかし、伯爵夫人は彼との間に血の契約がむずばれたと叫び、それを証明するように彼の死の間際、目の前に姿を現した。

それ以来、バーデン大公家の人間が死ぬ際には目の前に姿を現すようになったという。

 

これは2つともコミュニケーションが足りない系悲劇。シェイクスピアの話とか元にしてそう。
アジアに比べるとヨーロッパの怪異は年代や地域、顛末までしっかりとしたものが多く、普通に物語として面白い。

 

その他

ベリードアライブ

1996年に発売された任天堂のゲームポケットモンスター赤・緑にまつわる怪談。

ストーリーの中盤で訪れるポケモンのお墓をテーマにした町シオンタウンにあるポケモンタワーの最上階に出現するモンスター。

その姿は墓場から這い出てくる死体のような見た目で「ここです」「私は閉じ込められています」「私は孤独です。寂しい」などと話し、「私の仲間になれ」と戦闘になる。

ベリードアライブはシステム上限であるレベル100を超えたレベル101の「ホワイトハンド」というポケモンを使用する。

このため勝つことが難しく、負けるとゲームオーバーになり「新鮮な肉だ」というセリフが表示され、画面の向こうではシオンタウンの暗いBGMと肉を貪り食うような音が聞こえてくるという報告もある。ちなみにベリードアライブとは「生き埋め」を意味する。

 

ゲームの怖いバグ系の話も好きです

 

意外と面白い怪異年表

 

「辞典」と謳っているだけあって、この本には巻末に「五十音索引」「ジャンル別索引」「国別索引」がある。

これが結構便利で、「あーなんだっけなぁ。黒髪の〜、傘をさしてる女の幽霊なんだったかなぁ」と思い出したい時など、黒髪だからアジアだよな…えーっと、傘……。と怪異が探しやすい。

さらに、最後に付録でついてる「怪異世界史対照年表」は横軸が年号と怪異で縦軸が地域別に発生したイベントが書いてある。

これは、眺めているだけでも結構面白い。タイタニックが沈没した時に、エジプトから宝物を持ち出した人間が呪われるという「アメン・ラーの呪い」の話が広まっている。

テレビなどの普及とともに語られる怪異が、神話や昔話から実際の事件をもとにしたものに変化しているような気がする。

 

まとめ

一読してみた感想としては、星3つと標準のレビューになるが、

このように世界の怪奇話について読むことのできる(しかも辞典形式で)本は貴重なので、作者の朝里樹氏には感謝しかない。

今後の創作活動やオカルト活動(?)にも役立つこと間違いなし。

東雅夫さんのアンソロジーに代わる地図になるかもしれない。

しかし、参考資料からの出典が多いので、令和の柳田國男と呼ばれるには実地調査や自ら出向く取材が必要になるだろう。

著者が1990年の生まれでまだお若いので、これからの活躍に期待しつつ続編を待ちたい。

(自分で調査する気は皆無!)

 

読む順番が逆になったが同著者が日本の怪異についてまとめた「日本現代怪異辞典」「日本現代怪異辞典・副読本」もある!こっちもなかなか面白そう。

幸いにも「日本現代怪異辞典」は入手できたのでこれから読むのが楽しみ!

 

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